2025.10.15
私のこと島根での6年間を終え、2010年4月から岡山大学付属病院で初期臨床研修を受けました。
初めて患者さんと向き合った日、白衣の重みがこれまでとは全く違って感じられました。
あの日の緊張と重圧は、今でも鮮明です。
初めて患者さんの命を前にしたとき、逃げ出したくなったのを覚えています。
もちろん、上級医の先生がそばで指導してくれましたが、診察や処置の一つひとつに緊張し、不安でいっぱいでした。
私は決して優秀ではありません。だからこそ自分に言い聞かせていた言葉があります。
「よーい、どん!」で、スタートしたら出遅れる。
でも、人より先に準備して、倍努力すれば、きっと自分も追いつける、なりたい自分に近づける。
そう毎日、自分に言い聞かせていました。
患者さんを前にして、何もできずに無力感に打ちひしがれることもたくさんありました。
とくに研修医1年目は、右も左もわからず、自分が知識や能力で役に立てることはほぼありませんでした。
自分にできることは、「患者さんの話や訴えをよく聞いて、自分の上級医、指導医に伝えること」、そう思い、動きました。
大学病院には多くの患者さんがおられましたが、中には治療が難しいような方や予後が厳しい方もおられました。
私が担当させてもらった患者さんで忘れられない方がいます。
その方は、いわゆる白血病を患っておられる方で、厳しい抗がん剤治療を繰り返している方でした。
まだ小さいお子さんがおられ、家に帰りたいといつも仰っておられました。
病室から出たくても出られない、そんな状況の中でも、私には優しい口調で、「先生が時間あるなら、何でもいいから話そうよ」そう言ってくれました。
たわいもない話から将来のこと、ときには私の悩みまで聞いてもらって、逆に私の方が救われているとさえ感じました。
そんなある日、患者さんが「先生が担当でいてくれて、ほんとによかった」と笑顔で言ってくださったとき、涙があふれるほど嬉しくて、心の中で誓いました。
「いつか本当に誰かに必要とされる人間になろう」
妻と研修医時代