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厚生労働省入省時

2025.10.29

私のこと

第13話:政策の現場で見つけた課題と可能性

行政経験がなかった私にとって、厚生労働省に入ってからの現実は想像以上に厳しいものでした。

 

これまでの現場経験を生かせる場だと思っていたのに、何もできず、上司に言われたことすらろくにこなせませんでした。

 

何より、それまでの仕事では自分がどれだけ微力でも、目の前の人のために少しでも役に立っているという実感がありました。

けれど行政では“誰かのためにする仕事”であっても、その“誰か”は目の前にはいません。

自分の働きが本当に役立っているのか、実感が持てませんでした。

 

今振り返ると、当時の自分には行政人としてやりがいや手応えを感じられるだけの経験も実力も足りなかったのだと思います。

 

初めて味わう、挫折感でした。

 

私はそれまで「情熱さえあれば何でもできる」と信じていました。

 

でも、一人ひとり背景も考え方も違い、仕事に対するモチベーションもさまざま。

それでも一つのチームとして目標に向かい、気持ちよく働けることが一番大事だと、30歳を過ぎてようやく気づかされました。

 

これまで“情熱”という言葉に甘えて、いっしょに働く人たちの思いや背景に寄り添えていなかったことを、心から恥ずかしく思いました。

 

そんなある日、もともと麻酔科の上司で、自分が最も尊敬する先輩が励ましに来てくれました。

 

「あれだけ止めたのに、誰の言うことも聞かず、飛び出したくせに」

 

と冗談交じりに言った上司。

 

そして

「まあ、お前がどうなったとしても帰る場所はあるから心配すんな。ただ、挑戦しようとした気持ちは忘れんなよ。誰にでもできることじゃないから、期待しとる。思う存分楽しめ」

 

そうでした。

自分で決めて、自分で始めた挑戦でした。

とにかく続けてみよう。いつか未来に向けて、仲間たちと一緒に歩むために、「挑戦を恐れず」ではなく「挑戦を楽しむ」ときだ。

 

それから2年間、法律の読み方、伝わる文章の作り方、人を納得させる話し方や立ち居振る舞いなど、行政人としてのいろはを必死で学びました。

 

どうすれば異なる立場や考え方の人たちと協力しながら働けるのか。

自分にできる役割は何か。自問自答を重ねる日々が続きました。

 

中国四国厚生局に赴任し1年ほど経った頃、地域の医療現場に足を運ぶ機会を得ました。

医事課長として地域医療の監督や指導を行う中で、医療従事者の不足、在宅医療の担い手不足、医療の空白地帯など、地域ごとに異なる課題に直面しました。

 

どんな政策も、現場の声が反映されていなければ意味がない。

 

「現場の声に耳を傾ける」

「答えは常に現場にある」

 

よく使われる言葉ですが、その本当の意味や大切さが、ようやく自分の中に落ちていく感覚がありました。

 

私はもともと現場にいて、そこから行政に入った。

だからこそ、現場の声を良い政策に繋げる。

それが自分の強みであり、役割なのだと少しずつ自信を持てるようになってきました。

 

また、地域の素晴らしい取り組みにも出会いました。

特に島根県雲南市での経験は、地域の可能性を肌で感じる時間でした。

 

地域の病院と住民が一体となり、誰も取り残さない仕組みを築こうと挑戦を続ける姿勢に心を打たれました。

幸雲南塾では、地域を支える若い世代が、世代や職種を越えて未来を語り合い、学び合っていました。

コミュニティナースとして、暮らしの支え手として活動する若い人たちの姿も本当に頼もしく感じました。

こうした取り組みが、地域を元気にし、人を惹きつける力になるのだと実感しました。

 

津山でも、こんな挑戦を応援できる仕組みを仲間たちと一緒につくりたい。

 

現場の声に耳を傾ける中で、「もっと地域に近い場所で、地域に住む人たちと一緒に仕組みをつくっていきたい」という想いが芽生えていきました。

 

制度を整えるだけでは足りない。

もっと現場に寄り添う行政が必要だ――そんな気づきが、自分を次のステージへと導いてくれたのです。

 

中国四国厚生局時代

中国四国厚生局時代

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